川井書生の見聞録

映画評論、旅行記、週刊「人生の記録」を中心に書いています。

映画『コンフィデンスマンJP プリンセス編』における良心

 今週のお題「最近見た映画」。と言うことで、大学生4年間で2000本近くの映画を見た僕が、最近見た『コンフィデンスマンJP プリンセス編』を脚本の観点から考察してみる。

 なぜ、脚本の観点から考察するかというと、この映画は脚本家・古沢良太のエッセンスがよく見られるからである。特に「良心」というテーマがよく表れている。

 (※もし本記事を引用・参照される場合は参考文献または注釈として記載をお願い致します。またその場合はコメント頂けますと幸いです。)


『コンフィデンスマンJP プリンセス編』予告【7月23日(木・祝)公開】

⑴ 『リーガル・ハイ』『コンフィデンスマンJP』の主要人物の役割

『リーガル・ハイ』のメインキャラクター4名

 『コンフィデンスマンJP』を考察する前に、古沢良太の大ヒットドラマである『リーガル・ハイ』を考察してみようと思う。なぜなら、その時すでに『コンフィデンスマンJP』と同じキャラクターの配置・役割が与えられているからだ。

 主人公・古美門研介(堺雅人)は弁護士であり、知能を総動員して裁判を戦う。しかし、彼の弁護の仕方は苛烈で非良心的である。また、テンションが上がると早口になり、主に相棒の黛弁護士に対して毒舌を浴びせたり、馬鹿にしたりと、周囲の人物を振り回しがちである。

 もう一人の主人公・黛真知子(新垣結衣)も弁護士で、どちらかというと知能での勝負は得意ではなく、いつも古美門に振り回され、馬鹿にされている。正義感が強く、お金や勝利のためなら手段を問わない古美門としばしば対立している。しかしながら、彼女の良心は古美門には信頼されている一面もあり、その良心によって問題を解決することもある。

 このように古美門は知能を長所とする一方で良心には欠け、黛は良心を美徳とする一方で知能では古美門に劣る。この二人と行動を共にしている人物が二人おり、加賀蘭丸(田口淳之介)は古美門の調査員として忍者のように活躍し、服部(里見浩太朗)は古美門が唯一丁重に接する謎多き人物である。

 ドラマではこの4名が主に法廷を舞台に、相手側の弁護士や原告・被告と戦う。

『コンフィデンスマンJP』のメインキャラクター4名

 さて、こちらのメインキャラクター4名も『リーガル・ハイ』と似た役割を各々持っている。主人公・ダー子(長澤まさみ)は女版古美門研介と言ってもいいくらいだ。彼女の詐欺は知能を武器とするが、時には味方のボクちゃんも騙すなど手段を問わない。テンションが上がると早口になり、主に相棒のボクちゃんを馬鹿にしたりと、性格の悪さが際立つようになる。

 こちらのシリーズの黛的ポジションにいるのがボクちゃん(東出昌大)である。彼は詐欺師ではあるのだが、時には普通の美大生に一本取られるなどお人好しである。そのため、しばしば詐欺のターゲットの返り討ちにあうなど知性には欠けている。その一方で、暴走するダー子を諌めようとしたり、ターゲットに同情したりと良心を持ち、その良心はダー子にも信頼されている(ダー子はその良心も利用して詐欺を働くのだが)。

 このようにダー子は知能を長所とする一方で良心には欠け、ボクちゃんは良心を美徳とする一方で知能ではダー子に劣る。この二人と行動を共にしている人物が二人おり、リチャード(小日向文世)は二人のサポート役として、五十嵐(小手伸也)はダー子の調査員兼懐刀として二人を支えている。

 ドラマではこの4名が大金持ちを相手にお金を騙し取る。

⑵ プリンセス編では「良心」によって勝つ

 さて、問題の『コンフィデンスマンJP プリンセス編』だが、この映画では良心によって物語上の問題が最終的に解決する。と言っても、その良心の持ち主はボクちゃんではなく、コックリ(関水渚)である(ボクちゃんはこの映画ではサポートメンバーに過ぎない)。

 今回のターゲットは、世界的富豪であるフウ家の遺産である。フウ家の当主レイモンド・フウ(北大路欣也)が亡くなった際、彼は「4人目の子供に全遺産を譲る」と遺言を残していたのだが、その4人目の子供が一向に出現しない。ダー子はそれを利用してコックリをレイモンド・フウの4人目の子供に仕立て上げ、フウ家へ接近する。

 しかし、フウ家の執事であるトニー(柴田恭兵)にコックリが偽物であるとバレてしまう。が、同時に本物もいないとトニーは知り、これからのフウ家を誰に継がせるべきか迷う。その状況下、コックリがフウ家の当主になるパーティーが始まる。

 そのパーティでフウ家に予想外の出来事が起きる。テロリストがフウ家の次男・アンドリュー・フウ(白濱亜嵐)を人質に取るのだ。しかし、そのテロリストはかつてコックリに落とした果物を拾ってもらった人物であり、その際テロリストが無くしてしまった大切な人形をコックリから返却される。コックリから優しさを分け与えられたテロリストはその場で崩れ落ちる。コックリの良心が何物よりも勝った瞬間である。

 トニーはその出来事を見ていた。そして、トニーもコックリの良心にうたれ、コックリをフウ家の当主として本当に迎えることに決める。彼女が偽物であると知っていながら。フウ家の他の兄弟たちも彼女を当主として認めることになる。まさに、コックリの良心が今回の詐欺を成立させ、ターゲットであったフウ家を倒したのである。つまり、この映画において良心は知性に勝ったのである。

⑶ まとめ

 古沢良太脚本の『コンフィデンスマンJP プリンセス編』。この映画は他の古沢作品と違わず、良心のテーマを担当するキャラクターが登場し、その良心が智謀策略を上回るのである。この良心の優位性はこの映画のみならず、ドラマ『コンフィデンスマンJP』、ドラマ『リーガル・ハイ』にも言える。

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コンフィデンスマンJP プリンセス編

コンフィデンスマンJP プリンセス編

  • 発売日: 2020/12/25
  • メディア: Prime Video